
体を整えることは、未来の命を迎える準備になるのかもしれない
私はピラティスを教えて、今年で15年になります。
15年も続けていると、姿勢が変わった、腰痛が楽になった、体重は変わらないのに「痩せた?」と聞かれた——そんなうれしいご報告を、たくさんいただきます。
体重計は無言でも、パンツは正直ですからね。
そして、その中には忘れられないご報告もあります。
何年も不妊治療を続けておられた方が、ピラティスに通い始めて半年ほど経った頃、
「先生、赤ちゃんを授かりました」
と教えてくださったこと。
もちろん、お一人だけではありません。
長く妊活を続けてこられた方から、ご懐妊の報告をいただくことが、これまで何度もありました。
そのたびに私は、胸がいっぱいになります。
ただし、ここは命に関わる大切なお話なので、最初にはっきりお伝えしておきます。
ピラティスをすれば妊娠できる、ということではありません。
妊娠には、年齢やホルモン、卵巣や子宮の状態、精子の状態、持病、生活環境など、本当にさまざまな要素が関係します。
ですから、私が「ピラティスのおかげで妊娠しました!」と大きな声で言うことはできません。
私、ピラティスの先生ではありますが、コウノトリの配達担当ではありませんので。
けれど15年間、女性の体と向き合ってきた者として、ピラティスと妊活はとても相性がいいのではないか、と感じています。
妊娠するためではなく、体を整えるために
ピラティスでは、呼吸をしながら骨盤や背骨を丁寧に動かし、体の深いところにある筋肉を使います。
普段ほとんど意識していない骨盤まわりも、ゆっくり動かしていきます。
デスクワークや運動不足、冷えや緊張などで、私たちの体は思っている以上にカチコチです。
肩もカチコチ。背中もカチコチ。お尻までカチコチ。
「私、そんなに頑張っていたんや」と、体を動かして初めて気づく方も少なくありません。
ピラティスは、卵巣や子宮を直接治療するものではありません。しかし、適度に体を動かすことで、筋力や姿勢、睡眠、気分など、健康の土台を整える助けにはなります。
妊娠のために体を無理やり“正常にする”というよりも、本来の体が働きやすい環境づくりをお手伝いする。
私は、そんなイメージで捉えています。
妊活中こそ、心まで頑張りすぎてしまう
妊活や不妊治療を続けている方にとって、毎月の結果を待つ時間は、言葉で簡単に表せるものではないと思います。
「考えすぎないで」と言われても、考えないなんて無理ですよね。
“考えないようにしよう”と考えた時点で、もうしっかり考えています。
治療の予定、仕事との調整、周囲からの何気ない言葉。そして、期待した分だけ大きくなる落胆。
「リラックスしたら妊娠するよ」という言葉さえ、時には新たなプレッシャーになります。
リラックスできない自分が悪い、なんて絶対に思わないでください。
そんな時、ピラティスの時間だけは、結果ではなく「今の自分の体」に意識を戻す時間になります。
息を吸う。
ゆっくり吐く。
背骨をひとつずつ動かす。
今日はここが硬いな。前より少し動きやすいな。
その60分間だけでも、検査の数値や予定表から少し離れ、自分の体を責めずに向き合える。
妊活中のピラティスには、そんな意味もあるのではないかと思っています。
「奇跡」をピラティスだけの手柄にはしません
ご懐妊の報告をいただいた時、私はもちろん飛び上がるほどうれしいです。
でも、それをピラティスだけのおかげだとは考えていません。
ご本人が積み重ねてこられた治療や努力、医療機関の支え、ご家族との時間、そして言葉では説明しきれないたくさんの要素が重なって訪れた、とても大切な出来事です。
ピラティスは、その道のりの途中で、体と心を整えるお手伝いができたのかもしれない。
そのくらい謙虚な立ち位置でいたいと思っています。
赤ちゃんを授かった方にも、まだその途中にいる方にも。
治療を続ける方にも、一度お休みする方にも。
そして、子どもを持たない人生を選ぶ方にも。
どの選択も、その方自身が一生懸命考えた大切な人生です。
妊活中の方へ
もし今、妊活や不妊治療の途中で、
「運動したいけれど、何をしたらいいかわからない」
「激しい運動は少し不安」
「体を整えながら、気持ちもリセットしたい」
そう感じているなら、ピラティスを一つの選択肢として考えてみてください。
ただし、不妊治療中や治療直後、妊娠の可能性がある時期などは、運動を控えた方がよい場合もあります。治療内容や体調によって注意点が異なるため、まずは主治医に相談し、インストラクターにも治療中であることをお伝えください。
焦らず、競わず、無理をせず。
ピラティスは「頑張った人から妊娠できる」という話ではありません。
妊娠のためだけに、自分の体を追い込むものでもありません。
今の自分の体を大切にして、呼吸をして、少しずつ整えていく。
その時間が、妊活という長い道のりを歩く方にとって、ほんの少しでも心地よい時間になれば——。
15年間、たくさんの女性の体と人生に寄り添ってきたインストラクターとして、私は心からそう願っています。